ゆかりごはんの縁結び -読書記録-

とにかく面白い小説が読みたい…!

『スタープレイヤー』恒川光太郎:異世界で好き放題できるとしたら…?

 

『スタープレイヤー』

著者 :恒川光太郎

出版社:角川文庫

ページ:400

満足度:★★★★★☆☆☆☆☆

 

作品紹介

日本ホラー小説大賞をはじめとしたさまざまな賞を受賞している実力派、恒川光太郎によるファンタジー小説『スタープレイヤー』。本作はNHKでラジオドラマ化もされており、続編も出版されている人気作となっている。恥ずかしながら、恒川先生の作品はこれまで読んだことがなかったため、今作が初めての恒川作品となる。

 

以下、あらすじ

路上のくじ引きで一等賞を当て、異世界に飛ばされた斉藤夕月(34歳・無職)。そこで10の願いが叶えられる
「スタープレイヤー」に選ばれ、使途を考えるうち、夕月は自らの暗い欲望や、人の抱える祈りの深さや業を目の当たりにする。
折しも、マキオと名乗るスタープレイヤーの男が訪ねてきて、国家民族間の思惑や争いに否応なく巻き込まれていく。
光と闇、生と死、善と悪、美と醜――無敵の力を手に、比類なき冒険が幕を開ける!
鬼才・恒川光太郎RPG的興奮と神話世界を融合させ、異世界ファンタジーの地図を塗り替える、未曾有の創世記

 

 

ワクワクする展開

今作は、34歳無職の主人公:斎藤夕月がクジ引きで一等を引き当て、スタープレイヤーとして異世界に飛ばされるところから始まるファンタジー作品である。ちなみに、二等は五億円、三等は一億円である。頼む、僕にもクジを引かせてくれ。

そうして異世界に飛ばされた夕月は、スターボードと呼ばれる端末を手に入れる。これは、スタープレイヤー以外には視認できず、どんな願いも10個まで叶えられる〈十の願い〉という力を内蔵した魔法の端末である。元の世界に戻るには、最低100日は異世界で過ごさなければいけない。さぁ、あなたならどうする…!という、非常に序盤から興味のそそられる展開である。

序盤の真ん中辺りで、夕月は願いを叶える力を1つ消費して、自分の左足のアキレス腱を切断した通り魔を異世界に呼び出し、監禁して謝罪を強要するという、非常に僕好みの行動をとる。あぁ、本当にたまらない。この辺りのジメジメとした展開は非常に美味である。これはとんでもない作品に出合ってしまった…!と思わずガッツポーズをしてしまった。

 

展開がサクサク

今作は、サクサクと話が進んでいくため、非常に読みやすい。中だるみせずにひたすら突っ走る作風となっており、ストレス無く読むことができる。登場人物もそこまで多くないため、頭がこんがらがることもない。今流行りの異世界転生モノ的な作風でもあるため、あまり小説を読まない中学・高校生にもおすすめできる作品であると思う。

しかも、実際に現地を訪れてマップを広げていくシステムや、徘徊している異形のモンスターなど、RPG好きにはたまらない要素がてんこ盛りであり、非常に読んでいて楽しい。RPGにはまったことのある人なら、世界観だけでもうたまらなく興奮できるのではないだろうか。

 

しかし、個人的な本作の満足度は星5つである。それはなぜか。

※以下に、今作に対する否定的な意見を載せています。今作が好きな方、未読の方はブラウザバックすることを推奨します。

 

〈十の願い〉がチート過ぎる

正直、今作の惜しい部分は「十の願いがあまりにもチート能力すぎる」という点である。〈十の願い〉は、代償もなく好きな願いを10個まで叶えられる能力なのだが、適応範囲があまりにも広すぎる。

例えば、「チーズケーキが食べたい」という願い事を叶えたいとしよう。しかし、これだけで力を1つ消費してしまうのはもったいない。ならば、「ケーキがいっぱい並んだテーブルが置かれた、二階建ての、家具が揃った家が欲しい」とすればどうだろうか。こうすれば、ケーキのついでに家具付きの家も手に入る。そう、今作ではそれが許されているのだ。つまり、1つの願い事の中にいくらでも複数の願いを詰め込むことが可能となっている。

これではあまりにもチート過ぎる。しかも、矛盾している願いや物理法則の土台を変えてしまう願いはNGだという制限はあるのだが、過去に死んだ人を生き返らせることは可能である。そのため、中盤あたりで国同士の戦いが勃発して兵士がたくさん戦死したりするのだが、複数の願いを1つにまとめられるという性質上、「~のついでに、一年以内にこの国で死んだ人を生き返らせる」と願えば全員生き返ってしまうのだ。こうなっては、誰かが死んでもどうせまた生き返るんだろう、と少し冷めた目で物語を追ってしまい、ワクワク感が損なわれてしまう。

そんな力を持っているのにも関わらず、夕月は中々力を使おうとはせず、最終的に敵に追い詰められ、想像を遥かに下回るしょうもない願いを叶えて国を救って一件落着、となる。うーん。序盤がピークだったかなぁと思わざるを得ない。

 

 

少し厳しめの意見となってしまったが、それは、今作は本当に惜しい作品だと心から思ったためである。願いを叶える能力を使って異世界に飛ばした黒幕を見つけ出す、とか、スタープレイヤー同士の願い事バトル勃発、とかそういう方向に持っていけば文句なしの傑作となった気がしてならない。続編である『ヘブンメーカー』はかなり面白い作品だと聞いているため、近いうちに続編を読んでいこうと思っている。