ゆかりごはんの縁結び -読書記録-

とにかく面白い小説が読みたい…!

2024年4月 2週目 読んだ本まとめ 『正欲』『宙ごはん』『ミリは猫の瞳のなかに住んでいる』他2作

どうも、ゆかりごはんです。

今週も読んだ本を記録がてらまとめて行こうと思う。僕が今週読んだ小説は、以下の5作である。

 

『正欲』朝井リョウ

あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。

息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づいた女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。

しかしその繋がりは、"多様性を尊重する時代"にとって、
ひどく不都合なものだった――。

「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな」

これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?

作家生活10周年記念作品・黒版。
あなたの想像力の外側を行く、気迫の書下ろし長篇。

めちゃくちゃ面白かった…!

ただ面白いというだけではなく、非常に興味深い作品だった。鬼才、朝井リョウが考える「多様性」が存分に詰め込まれている、思想書のような小説である。今の時代、ただマイノリティに寄り添って正義面したいだけの作品は腐るほどある。しかし、この作品はそこから一歩踏み込んだ切り口で書かれている。自分がマイノリティ側の人間だと自覚している人間たちが、本気で今を生きようともがいた結果どうなるのか。その結末は、是非その目で確認してみてほしい。

しかし、こんな問題作とも呼べる作品が本屋大賞にノミネートされ、さらには僕ら世代のスター女優:新垣結衣主演で映画化されるなんて…。ものすごい時代である。僕は基本的に小説/漫画原作の実写映画は見ないのだが、この作品に限ってはかなり気になっている。サブスクに追加されたら見てみようかな。

 

『宙ごはん』町田そのこ

この物語は、あなたの人生を支えてくれる

宙には、育ててくれている『ママ』と産んでくれた『お母さん』がいる。厳しいときもあるけれど愛情いっぱいで接してくれるママ・風海と、イラストレーターとして活躍し、大人らしくなさが魅力的なお母さん・花野だ。二人の母がいるのは「さいこーにしあわせ」だった。
宙が小学校に上がるとき、夫の海外赴任に同行する風海のもとを離れ、花野と暮らし始める。待っていたのは、ごはんも作らず子どもの世話もしない、授業参観には来ないのに恋人とデートに行く母親との生活だった。代わりに手を差し伸べてくれたのは、商店街のビストロで働く佐伯だ。花野の中学時代の後輩の佐伯は、毎日のごはんを用意してくれて、話し相手にもなってくれた。ある日、花野への不満を溜め、堪えられなくなって家を飛び出した宙に、佐伯はとっておきのパンケーキを作ってくれ、レシピまで教えてくれた。その日から、宙は教わったレシピをノートに書きとめつづけた。

弘万歳!!!!弘万歳!!!!

どうも、泰弘信者のゆかりごはんです。この作品を読んであなたも泰弘教の信者となりましょう。…このスタンスは泰弘に怒られそうだから、この辺りでやめておこう。

いやぁ、本当に心温まる良い作品だった本屋大賞ノミネートも納得の名作だ。複雑な家庭環境である宙ちゃんと周りの大人たちが、美味しい料理に勇気をもらいながら成長していく物語である。大人だってダメな部分はいっぱいあるし、闇を抱えて生きている。そこを認めた上でどう生きていくのか。何を他人に与えられるのか。この作品を通して、そういったことを学べた気がする。自分も何か他人に与えられる人間になりたいなぁ。

ちなみに、今作はタイトルからは想像できないほど内容が重い軽い気持ちで読むと心に傷を負うこと間違いなしである。だが、そこを我慢してでも読む価値はあると思うので、どうか頑張って耐えてほしい。絶対に読んで良かったと思えるから。

 

『ミリは猫の瞳のなかに住んでいる』四季大雅

これは「僕」が「君」と別れ、「君」が「僕」と出会うまでの物語だ。

★第29回電撃小説大賞《金賞》受賞作★
読書メーターOF THE YEAR2023-2024 ライトノベル部門第2位☆

瞳を覗き込むことで過去を読み取り追体験する能力を持つ大学生・紙透窈一(かみすきよういち)。退屈な大学生活の最中、彼は野良猫の瞳を通じて、未来視の能力を持つ少女・柚葉美里(ゆずのはみり)と出会う。
猫の瞳越しに過去の世界と会話が成立することに驚くのもつかの間、『ミリ』が告げたのは衝撃的な『未来の話』。

「これから『よーくん』の周りで連続殺人事件が起きるの。だから『探偵』になって運命を変えて」
調査の過程で絆を深める二人。ミリに直接会いたいと願う窈一だったが……
「そっちの時間だと、わたしは、もう――」

死者からの手紙、大学の演劇部内で起こる連続殺人、ミリの言葉の真相──そして、嘘。
過去と未来と現在、真実と虚構が猫の瞳を通じて交錯する、新感覚ボーイミーツガール!

デビュー作『わたしはあなたの涙になりたい』(小学館ガガガ文庫刊)は『このライトノベルがすごい!2023』(宝島社刊)新作部門1位を獲得。
超大型新人が電撃小説大賞の看板を引っ提げて繰り出す衝撃作!

恋愛×SF×ミステリ!要素てんこ盛りの意欲作!

今作は、ありとあらゆる要素をギュギュっと詰め込んだ青春演劇ライトノベルである。いや、この作品すごいよ。間違いなく名作だと思う。どう考えても取っ散らかりそうな設定なのに、1つのミステリ作品として綺麗にまとめ切っている。登場キャラたちも魅力的であるし、ミステリのレベルも非常に高い。終盤の展開も非常に練られていて、見事としか言いようがない。ラノベだからと敬遠するには惜しい作品である

ただ、同時に非常に惜しい作品であるとも言える。今作の設定や話の展開は間違いなく傑作レベルなのだが、1つ大きな欠点がある。それは、恋愛感情の理由付けが甘いことだ。ミリが主人公のことを好きである理由は最後に明かされるのだが、主人公がミリのことを好きになる理由が最後まで曖昧なのだ。言ってしまえば一目惚れだ。両想いであることが最後の展開のエモさに大きく効いてくるため、その辺りをもう少し丁寧に書いてあれば間違いなく傑作だっただろう。

僕は今作を読んで、この作者のファンになったことをここに明言しておく。実は、今作はこの作者の作品群の中では最も評価の低い作品らしい。そのことを知った時、「え、この完成度で!?」と驚いた。同著者の他の作品を読むのが今から楽しみである。

 

『最後は臼が笑う』森絵都

とてもひねりの効いた、一筋縄ではいかない大人のための恋愛短編。確かに女と男は〝出会う〟のだが、そこから先が尋常ではない。幸せの形は人それぞれとは言うものの……。

ヒロインは公務員の桜子、39歳。人生このかた、ろくでなしの悪い男にひっかかり続けてきた関西人。妻子持ちに騙され、借金持ちには貢がされ、アブノーマルな性癖持ちにいたぶられる。ところが、桜子は「ろくでなしや、あかん奴や言われとる男に限ってな、どっかしら可愛いとこを持っとるもんなんや」と公言し、好んで吸い寄せられていく。高校時代からの友人の「私」は、悪弊の連鎖を断つべく有志を募り、「桜子の男運を変える会」まで結成したが、当人は我関せずだから、どうしようもない。

ところがある日、解散して早十年を数える会に、桜子から緊急招集がかかる。「一分の隙もない完全な悪」にとうとう出会ってしまったのだという。〝完全な悪〟とはいったい何者か?

20分くらいで読める短編であるにもかかわらず、非常にスカッとした気持ちになれる爽快小説。最後のタイトル回収は見事であり、ふふふ…とニヤついてしまうこと間違いなしである。何を語ってもネタバレになるので詳しくは書かないが、サクッと読めるので興味のある人はとりあえず読んでみてほしい。

 

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』汐見夏衛

親や学校、すべてにイライラした毎日を送る中2の百合。母親とケンカをして家を飛び出し、目をさますとそこは70年前、戦時中の日本だった。偶然通りかかった彰に助けられ、彼と過ごす日々の中、百合は彰の誠実さと優しさに惹かれていく。しかし、彼は特攻隊員で、ほどなく命を懸けて戦地に飛び立つ運命だった――。のちに百合は、期せずして彰の本当の想いを知る…。涙なくしては読めない、怒濤のラストは圧巻!

良くも悪くも小中学生向けだなぁと感じた作品。まぁ若者に戦争の愚かさを伝えるという点においては成功しているんじゃないかな。映画化までしているし。

残念ながら、僕には全く刺さらなかった。主人公の空気の読めない言動にひたすらイライラするし、オチも想像を全く超えてこない。でも、この作品は何も悪くない。真っ直ぐに物語を受け止めることができない、性根が捻くれて腐り落ちてしまっているこの僕が悪いのだ。

すごく真っ直ぐで純粋で、メッセージ性の高い作品ではあるとは思うので、好きな人は好きなのだろう。穢れを知らない頃に出会いたかったと思う作品だった。