ゆかりごはんの縁結び -読書記録-

とにかく面白い小説が読みたい…!

2024年4月 3週目 読んだ本まとめ 『兎は薄氷に駆ける』『バスタブで暮らす』『時をかけるゆとり』『運転者』

どうも、ゆかりごはんです。

X(Twitter)で読書用アカウントを作ってみた。なんとなくで始めたのだが、これがまぁ素晴らしい。他の方がポストしている本の感想を読んでいるだけで楽しいし、自分の感想に反応をもらえるのがすごく嬉しい。読みたい本も大量に増えた。積読が…。

それはそれとして、今週も読んだ本を記録がてらまとめて行こうと思う。

 

『兎は薄氷に駆ける』貴志祐介

父の冤罪をすすぐため、 
青年は身命を賭して復讐を誓った。 
――最後に暴かれるのは誰の嘘なのか!? 


ある嵐の晩、資産家男性が自宅で命を落とす。死因は愛車のエンジンの不完全燃焼による一酸化炭素中毒。容疑者として浮かんだ被害者の甥、日高英之の自白で事件は解決に向かうと思われたが、それは15年前の殺人事件に端を発する壮大な復讐劇の始まりだった。警察・検察、15 年前の事件の弁護も担当した本郷、事件調査を請け負う垂水、恋人の千春……。それぞれの思惑が絡み合い、事件は意外な方向に二転三転していく。稀代のストーリーテラーが満を持して放つ、現代日本の“リアルホラー”! 

「やってない。親父は無実です。」

エンタメ界の神様:貴志祐介による法定サスペンス。先に言っておくが、僕は生粋の貴志祐介信者である。中一の頃に『悪の教典』を読んで以来、貴志祐介という四文字が頭の中から離れなくなり、貴志小説を何度も読み返す日々を送っていた。大人になった今でも、無意識に貴志祐介の名をボソボソと呟いたりしてしまう。完全に変質者である。

貴志祐介作品の最大の特徴は、異常なまでのリーダビリティの高さである。一度読み始めるともう止まらない。徹夜確定である。今作もその力は健在であり、500ページ近くあったにもかかわらず一日で読み切ってしまった。

今作のテーマは「冤罪」である。物語は主人公に対する取り調べから始まるのだが、ここからもうかなりキツイ。刑事がゴミすぎる。傷が残らない程度に暴力をふるい、精神的に追い詰め、自白を強要する。コンプラ順守が叫ばれる昨今において、時代錯誤も甚だしい行為である。こうして主人公は嘘の自白をしてしまう。

その後、調査パートと法廷パートが交互に描かれながら、事件の真実が暴かれていく構成となっている。逆転裁判オタクの僕にはたまらない構成である。法廷パートの弁護士と検事のやり取りも凄まじいパワーがあり、まるでその場にいるような迫力が感じられた。やっぱり貴志祐介の筆力は半端ない。

重厚でエンタメ力の高い小説が読みたい人におススメの名作である。

 

『バスタブで暮らす』四季大雅

22歳女子、実家のバスタブで暮らし始める

「人間は、テンションが高すぎる」ーー

磯原めだかは、人とはちょっと違う感性を持つ女の子。
ちいさく生まれてちいさく育ち、欲望らしい欲望もほとんどない。物欲がない、食欲がない、恋愛に興味がない、将来は何者にもなりたくない。できれば二十歳で死にたい……。

オナラばかりする父、二度のがんを克服した母、いたずら好きでクリエイティブな兄、ゆかいな家族に支えられて、それなりに楽しく暮らしてきたけれど、就職のために実家を離れると、事件は起こった。上司のパワハラに耐えかね、心を病み、たった一ヶ月で実家にとんぼ返りしてしまったのだ。

逃げ込むように、こころ落ち着くバスタブのなかで暮らし始めることに。マットレスを敷き、ぬいぐるみを梱包材みたいに詰め、パソコンや小型冷蔵庫、電気ケトルを持ち込み……。さらには防音設備や冷暖房が完備され、バスルームが快適空間へと変貌を遂げていく。

けれど、磯原家もずっとそのままというわけにはいかなくて……。

このライトノベルがすごい!2023」総合新作部門 第1位『わたしはあなたの涙になりたい』の【四季大雅×柳すえ】のコンビで贈る、笑って泣ける、新しい家族の物語。

「人間は、テンションが高すぎる」

先週紹介した名作ミステリ小説『ミリは猫の瞳のなかに住んでいる』の作者:四季大雅によるハートフルストーリー。前作とはかなりジャンルが違う小説なのだが、安定して面白く、作者の筆力の高さが伺える。

今作を要約すると、バスタブに入った主人公が、そこから出るまでの物語である。ただの入浴かな?と思ったそこのあなた。全然違う。物語の序盤で主人公は、上司のパワハラで精神を病んでしまい、実家のバスタブ内で生活するようになる。そこからある事件をきっかけに立ち上がり、自立していくまでの成長物語である。

正直に言って、今作は全体的にハードである。それでも、ラノベらしいコミカルなキャラがたくさん出てくるので、かなりマイルドにはなっている。主人公がバスタブの中で、Vtuber配信を始めたりするところも現代っぽくて良い。後半の方はかなり暗い展開になるのだが、主人公周りの人間たちの明るさで極端に暗くはならないので、そういう話が苦手な方でも楽しめると思う。

「復讐は優雅になされなければならない」カッコ良い…。本作で一番好きなセリフである。やっぱり僕は四季大雅先生の言葉選びが好きだ。難しい言葉を使わずに、スパっと本質を突くような表現が気持ち良い。これからも追わせていただきます。

 

『時をかけるゆとり』朝井リョウ

就職活動生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。初のエッセイ集では天与の観察眼を縦横無尽に駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た、切なさとおかしみが炸裂する23編。『学生時代にやらなくてもいい20のこと』に社会人篇を追加・加筆し改題。

「エンジョイ♪」

戦後最年少直木賞作家:朝井リョウによるエッセイ集。単刀直入に言おう。アホ程笑える傑作である。本当に『桐島、部活やめるってよ』と同じ作者なのだろうか。バカと天才は紙一重という言葉は彼のためにあるのだと思わされた。

とにかく思いつきで無茶をやり、友人たちとギャハギャハと笑い合い、変人たちとバトルを繰り広げる。楽しそうで良いなぁ…。しかも、そんなバカをしている裏では小説家としての才能を開花させ、直木賞まで取っている。すでに濃厚すぎる人生である。

本作の中で特に好きなエピソードは、夏休みの課題作品として、自分のクラス名簿を基に500ページ超えの『バトル・ロワイアル』を執筆し提出したという話である。先生を序盤で退場させなければいけない都合上、当時の担任を早々に殺してしまい、それが問題視されて職員会議に議題として挙げられる。このエピソードはサラっと流される感じで書かれているのだが、僕は会社で爆笑してしまった。

とにかくバカ笑いしたい人におススメの爆笑必至の傑作エッセイ集。決して公共の場で読まないように。ニヤニヤしすぎて、気持ち悪い人だと思われてしまうので。

 

『運転者』喜多川泰

中年にして歩合制の保険営業に転職し、三年目の修一。
しかし、なかなか思うように成果が上がらない日々を過ごしていた。

ある日、唐突な担当顧客の大量解約を受け、
いよいよ金銭的にも精神的にも窮地に追いやられてしまう。

妻が楽しみにしていた海外旅行計画はキャンセルするしかない。
娘は不登校に陥っているうえに、今後の学費の工面も難しくなるだろう。
さらに長い間帰れていない実家で一人暮らしをしている、母からの電話が心にのしかかる。

「……なんで俺ばっかりこんな目に合うんだよ」

思わず独り言を言ったそのとき、
ふと目の前に、タクシーが近づいてくるのに修一は気がつく。

それは乗客の「運」を「転」ずるという摩訶不思議なタクシーで――?

「上機嫌であり続けることが運を好転させる」

しがないサラリーマンが、タクシーの運転手と出会って人生と向き合っていく作品。運が良いとは何か、考えさせられる素敵な作品だった。

今作は、小説という体をなしている自己啓発本である。運というものは、いつも朗らかで上機嫌で他者に興味を持てる人の元にやってくる、という当然のことに改めて気づかせてくれる。良い小説だ。