ゆかりごはんの縁結び -読書記録-

とにかく面白い小説が読みたい…!

『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦:キュート?でポップ?な全力おバカ恋愛小説

 

夜は短し歩けよ乙女

著者 :森見登美彦

出版社:角川文庫

ページ:336

満足度:★★★★★★★★☆☆

 

作品紹介

偏屈でどうしようもない、アホな人物を書かせたら右に出る物はいない作家、森見登美彦による、キュート?でポップ?な恋愛小説『夜は短し歩けよ乙女』。今作は非常に人気が高い作品で、2007年本屋大賞2位、山本周五郎賞受賞、そして2017年にはアニメ映画化も成し遂げた、森見登美彦出世作でもある。僕も当然今作の名前は知っていたのだが、恥ずかしながら今の今まで読んだことは無かった。別に意図的に避けていた訳ではないのだが、いつか読もう読もうと思っていたら気づけば10年以上経っていた。だが、今ではなぜもっと早く読まなかったのだと後悔している。それくらい今作は非常にエンタメ力の高い傑作であったため、つらつらと感想を記そうと思う。

 

以下、あらすじ

 「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。

 

ナカメ作戦、実行!

今作は、黒髪の乙女こと「後輩」と、後輩に恋する「先輩」の視点から描かれる青春恋愛小説である。これだけ聞くと、非常に爽やかな印象を受けるかもしれないが、そこは安心安全の森見作品、そこらの恋愛小説とは一味も二味も違う。

恋愛拗らせ大学生である先輩が、ひたすらに偶然を装いながら後輩とすれ違い続け、後輩と徐々に良い関係となり、最終的には結ばれてバラ色のキャンパスライフを送る、という作戦、名付けて「なるべく彼女の目に留まるようにする作戦」、通称「ナカメ作戦」を実行し続けるという物語。もはやストーカーである。

果たしてそんな作戦が上手くいくのか?と首を傾げた人も多いのではないだろうか。その通りである。普通に考えてみれば、そんな小賢しい作戦など、清楚黒髪乙女の前では何の効力も成さない。しかし、今作の主人公:先輩は格が違う。後輩の気を引くためなら、彼は燃え盛る部屋の中でコタツのなかで激辛の火鍋を食べたり、学園祭でのゲリラ演劇の主役を乗っ取ったり、天狗の教えで宙を舞ったりする。何を言っているか分からないだろうが、本当なのだから仕方がない。意味不明な戦いにひたすら挑み続けるアホな先輩、それが今作の大きな魅力の一つだと思う。

エンタメの塊

今作は、4つの章からなる連作短編小説なのだが、どの章も非常にエンタメ力が高い。先輩・後輩コンビはもちろんのこと、本作では一癖も二癖もある人物が多数登場するのだが、モブ含め全員が物語に絡んできてどんどん訳が分からない方向に物語が転がり落ちていく。

特に最高だったのが、第3章である。先輩後輩が通う大学でのお祭り(文化祭的な)の話なのだが、登場人物が全員イカれているのだ。女装好きのイケメン学園祭事務局長/パンツを一年間履き替えていないパンツ総番長/像の尻のお姉さん等、訳の分からない人物が次々と登場し、韋駄天ゴタツ事件/偏屈王ゲリラ演劇事件/パン食連合ビスコ派デモ行進等、数々の珍事件が次々と発生する。先ほどから自分でも何を書いているのか分からないのだが、小説にそう書いてあるのだから仕方がない。どうか許してほしい。

そんな訳の分からない話が4つも収録されている今作だが、4章全てハッピーエンドなので、安心して馬鹿笑いしながら読んでほしい。

 

 

感想は以上である。読んでいる最中は非常に楽しかったのだが、いざ感想を書こうとなると非常に悩ましい作品であった。なにせ、訳の分からないキャラたちが、訳の分からない世界観で、訳の分からない行動を取るのだもの。なんだよ、パンツ総番長って。とにかく、頭を中を高濃度のエンタメで満たしたいという欲求をお持ちの方は、すぐに本作を手に取ることをお勧めする。