ゆかりごはんの縁結び -読書記録-

とにかく面白い小説が読みたい…!

『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈:超行動力少女が織りなす青春群像劇

 

 

『成瀬は天下を取りにいく』

著者 :宮島未奈

出版社:新潮社

ページ:208

満足度:★★★★★★★★☆☆

 

 

2023年初頭から小説界を席巻し、驚異の10冠を達成し、今なお勢いの止まらない超絶話題作、『成瀬は天下を取りにいく』。宮島未奈先生のデビュー作でありながら、若者を中心に曝売れし、発行部数は既に10万部を超えている。さらにさらに2024年本屋大賞にノミネートもされており、このままの勢いで行けば本屋大賞も受賞し、文字通り天下を取ってしまうんじゃないかと思われる本作。僕のような性根のひん曲がった腐れ外道でも本作は非常に楽しめたので、感想を以下に綴っていこうと思う、

 

以下、あらすじ

2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。
コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。
M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組み、市民憲章は暗記して全うする。
今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。
2023年、最注目の新人が贈る傑作青春小説!

 

 

おもしれー女、成瀬あかり

本作の魅力は、なんといっても主人公:成瀬あかりである。本人はいたって真面目に好奇心のままに生きているつもりなのだろうが、周囲から見たら、いつも訳の分からない挑戦に取り組み続けている変人だ。将来の夢は「200歳まで素のお婆ちゃんで生きること」だし、目標はデパートを作ることだし、髪の伸びるスピードを正確に測りたいという理由で急に丸坊主にしたりする。おもしれー女である。

『たくさん種をまいて、ひとつでも花が咲けばいい。花が咲かなかったとしても、挑戦した経験はすべて肥やしになる。』

これは、成瀬あかりの軸となっている考え方なのだが、非常に興味深い。おそらく、これこそが作者が今の若者たちに伝えたいメッセージなのだろうと思っている。やっぱり何事もとりあえずやってみて続けていくことが大事だよなぁ…。

 

登場キャラクターが魅力的

本作は6つの章からなる連作短編集であり、最終章以外は全て成瀬周りの人間の視点からの物語となる。

1,2章の語り手は、成瀬の親友:島崎みゆきという女の子なのだが、この子はこの子でかなり変わっている。成瀬はかなり島崎を信頼しているようで、なにかと島崎のことを誘ってくるため、島崎は成瀬の奇行に振り回されっぱなしである。だが、当の本人は「成瀬あかり史を出来るだけ見届けたい」と誓っており、後半はノリノリで成瀬の提案を受け入れるようになる。成瀬の陰に隠れていて目立たないが、十分、彼女も個性的であり、魅力的である。

また、個人的に非常に面白い性格をしていると思ったのは、4章の語り手である成瀬の同級生:大貫かえでである。この子は、とにかくイジメられないようにをモットーに行動しており、変に目立つことを嫌っている。そのため、彼女は常に頭の中で「人物相関図」を更新し続けており、クラスメイトの力関係を把握しながら目を付けられないよう立ち回る。まさしく、マイペースな成瀬とは真逆の性格をしており、作中で唯一、成瀬に対して否定的なスタンスを貫いているキャラである。こういう成瀬アンチキャラが存在することで、「成瀬」という存在が神格化されすぎることもなく、丁度よいバランスで作品に落とし込めているんじゃないかと感じる。非常に重要な役回りであり、やはり魅力的なキャラである。

今回は省略するが、小学生の時にけんか別れした友人を今も気にしているおっさんや、成瀬に一目惚れした他校の生徒も非常に良いキャラをしている。本当にこの作品には外れキャラが存在しない。

 

成瀬だって普通の女の子

上述したように、本作は全6章からなる連作短編集なのだが、成瀬が語り手となるのは最終章のみである。この最終章が僕は非常に好きである。5章までは、成瀬のことをおもしれー女としてしか見れないのだが、最終章にてようやく成瀬が普段どういう生活をしていて、どういうことを考えていて、どのような人間であるかが明らかとなる。

毎朝アラームの鳴る二秒前に起床し、ランニングをして朝食を作るというなんともストイックな生活を送っている成瀬であるが、最終章中盤にて、親友:島崎が遠くに引っ越してしまうという衝撃の事実を突きつけられる。すると、これまでは無敵少女として描かれてきた成瀬が少しずつ崩れ始めるのだ。

アラームより早く起きれなくなり、問題集も全く解けなくなってしまう。寝ようにもなかなか寝付けず、体調を崩し、島崎との関係もぎくしゃくしてしまう。そう、成瀬だって(奇行に目をつぶれば)いたって普通の女子高生なのだ。成瀬は成瀬なりに人間関係に悩むことだってあるし、自己嫌悪にも陥るし、親友を気遣って行動するのだ。そういうギャップというか人間らしさこそが、成瀬が過剰に神格化されずに広く人々に受け入れられた理由であろう。

ラストも非常に爽やかで元気の出る終わり方となっている。どんでん返しや大きな見せ場は存在しないが、あぁ…なんか良いなぁ…って気持ちが心の底から湧いてくる。

 

 

いやぁ、非常に面白い小説だった。普段の選書のせいもあって、こんなにも真っ直ぐで爽やかな青春小説は久々だったが、本当に読んでよかったと思える作品だった。続編である『成瀬は信じた道をいく』はまだ読んでいないのだが、読み終わり次第、また感想をつらつらと書いていきたいと思っている。是非、成瀬にはこれからも若気の至りという免罪符を振り回しながら、明るく前に突き進んでほしい。