ゆかりごはんの縁結び -読書記録-

とにかく面白い小説が読みたい…!

2024年5月 2週目 読んだ本まとめ『でぃすぺる』『滅びの園』『〔少女庭国〕』『私が大好きな小説家を殺すまで』他2作

どうも、ゆかりごはんです。

今週は、Xのフォロワーさんがおススメしていた小説を中心に6作読了した。早速紹介していこうと思う。

 

『でぃすぺる』今村昌弘

『屍人荘の殺人』の著者が仕掛ける
ジュブナイル×オカルト×本格ミステリ

小学校最後の夏休みが終わった。小学校卒業まであと半年。
ユースケは、自分のオカルト趣味を壁新聞作りに注ぎ込むため、〝掲示係〟に立候補する。この地味で面倒だと思われている掲示係の人気は低い。これで思う存分怖い話を壁新聞に書ける!……はずだったが、なぜか学級委員長をやると思われたサツキも立候補する。

優等生のサツキが掲示係を選んだ理由は、去年亡くなった従姉のマリ姉にあった。
マリ姉は一年前の奥神祭りの前日、グラウンドの真ん中で死んでいた。現場に凶器はなく、うっすらと積もった雪には第一発見者以外の足跡は残されていなかった。つまり、自殺の可能性はなく、マリ姉を殺した犯人が雪が積もる前に凶器を持ち去ったはず。犯人はまだ捕まっていない。

捜査が進展しない中、サツキはマリ姉の遺品のパソコンの中に『奥郷町の七不思議』のファイルを見つける。それは一見地元に伝わる怪談話を集めたもののようだったが、どれも微妙に変更が加えられている。しかも、『七不思議』のはずなのに六つしかない。警察がこの怪談に注目することはなかった。そして、マリ姉に怪談を集める趣味がなかったことをサツキはよく知っている。

マリ姉がわざわざ『七不思議』を残したからには、そこに意味があるはず。
そう思ったサツキは掲示係になり『七不思議』の謎を解こうとする。ユースケはオカルト好きの観点から謎を推理するが、サツキはあくまで現実的にマリ姉の意図を察しようとする。その二人の推理を聞いて、三人目の掲示係であるミナが冷静にジャッジを下す……。

死の謎は『奥郷町の七不思議』に隠されているのか? 三人の〝掲示係〟が挑む小学校生活最後の謎。
こんな小学6年生でありたかった、という思いを掻き立てる傑作推理長編の誕生です。

「幽霊なんてありえないから」

傑作ミステリ小説である『屍人荘の殺人』の作者:今村昌弘が贈る、ジュブナイル×オカルト×本格ミステリ小説。オカルト要素とミステリ要素を上手く融合させており、エンタメ作品としてかなりレベルの高い作品に仕上がっている。

掲示係として壁新聞を書くことになった小学生3人組が、マリ姉の死の謎を明らかにするべく、唯一の手掛かりである『奥郷町の七不思議』の解明に挑む物語である。主人公たちは小学生であることが、本作のミソである。小学生であるが故の行動制限(移動手段の限定、活動時間の制限等)がある中で、事件の闇に切り込んでいく3人組にハラハラドキドキさせられた。

結末も、もしかしたら賛否両論あるのかもしれないが、予想の裏の裏をかいており僕個人としては非常に満足した。僕のようなライトなミステリ好きには文句なしにおススメできる傑作である

 

『滅びの園』恒川光太郎

わたしの絶望は、誰かの希望。

ある日、上空に現れた異次元の存在、<未知なるもの>。
それに呼応して、白く有害な不定形生物<プーニー>が出現、無尽蔵に増殖して地球を呑み込もうとする。
少女、相川聖子は、着実に滅亡へと近づく世界を見つめながら、特異体質を活かして人命救助を続けていた。
だが、最大規模の危機に直面し、人々を救うため、最後の賭けに出ることを決意する。
世界の終わりを巡り、いくつもの思いが交錯する。壮大で美しい幻想群像劇。

「死ぬときゃ死ぬってだけ」

独特の世界観を構築させることに関しては他の追随を許さない作家:恒川光太郎が贈る、異世界ファンタジーと地球滅亡SFを掛け合わせた挑戦的な群像劇作品。350ページほどの長さであるにも関わらず、恒川ワールド全開で満足度が非常に高い。立場の異なる複数人の視点から物語が進んでいき、ラストまでノンストップで突っ込んでいく。

異次元の存在〈未知なるもの〉が急に地球に襲来し、白く有害な不定形生物〈プーニー〉がありとあらゆる場所に出現。それにより、人類は滅亡の危機に瀕してしまう。絶滅の危機に直面した人類は、〈プーニー〉とどう対峙するのか。〈未知なるもの〉をどう退けるのか。SF初心者にもおススメできる名作である

 

『〔少女庭国〕』矢部嵩

卒業式会場に向かっていた中3の羊歯子は、気づくと暗い部屋で目覚めた。隣に続くドアには貼り紙が。“下記の通り卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ"。ドアを開けると同じく寝ていた女生徒が目覚め、やがて人数は13人に。不条理な試験に、彼女たちは…。中3女子は無限に目覚め、中3女子は無限に増えてゆく。これは、女子だけの果てしない物語。

〈ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ。〉

表紙詐欺も甚だしい超絶弩級の劇薬本。あらすじを読んだだけでは、本作を閉鎖空間でのデスゲーム物だとしか思わないだろう。とんでもない。そんな小さな器に収まるような作品では断じてない。地獄を体現したような問題作である。

本作の第一章では、閉鎖デスゲームとその結末について描かれる。そこまでは良い。本題は、残り3/4を占める補遺から始まるのである。本作は、少女たちの閉鎖デスゲームを無限回試行し、それぞれの試行の結末を研究レポート形式でまとめた作品である

ほとんどの試行では、少女たちが殺しあったり自殺したり衰弱したりであっさりと終了する。しかし、奇跡的な確率で少女たちは文明を築き始めるのだ。食糧や道具はもちろん”少女”で補っていく。少女たちの中でランク付けが行われ、奴隷制度が顕現し出し、崇拝や信仰が生まれていく。それでも、大抵の文明は何らかの障壁に阻まれ瓦解する。本作は、そうした人類史を追体験できる怪作である。本作に手を出す際は、相応の覚悟を持った方が良い。

 

『私が大好きな小説家を殺すまで』斜線堂有紀

なぜ少女は最愛の先生を殺さなければならなかったのか?

突如失踪した人気小説家・遥川悠真。その背景には、彼が今まで誰にも明かさなかった少女の存在があった。
遥川悠真の小説を愛する少女・幕居梓は、偶然彼に命を救われたことから奇妙な共生関係を結ぶことになる。しかし、遥川が小説を書けなくなったことで事態は一変する。梓は遥川を救う為に彼のゴーストライターになることを決意するが――。才能を失った天才小説家と彼を救いたかった少女、そして迎える衝撃のラスト! なぜ梓は最愛の小説家を殺さなければならなかったのか?

「私の神様は、ずっと死に損ね続けていたのだ」

本作は、天才小説家に命を救われた少女が、その小説家のゴーストライターとして生きていく話である。基本的に、天才小説家を殺した少女の目線から物語が紡がれていき、少女の周りを取り巻く異常な環境、天才小説家に対する崇拝に近い感情が明らかとなっていく構成となっている。

正直、オチは序盤の時点で察しがついていたのだが、オチまでの物語の運び方が非常に丁寧で引き込まれた。幸せだったはずの天才小説家との生活が、ほんの些細なすれ違いで徐々に崩れていき、最悪な結末に転がり落ちていく。信仰にも近い純愛が生んだ最悪の結末を、是非みんなにも味わってほしい。

 

『冷蔵庫のように孤独に』村木美涼

14歳の時、ピアノを嫌っていた美咲が出逢ったのは、老齢の父と住むピアノの先生だった。彼女は、発想記号を理解する時は空き地に捨てられた冷蔵庫を思い浮かべればいいと不思議なことを言う。ピアノを好きになる美咲だが、先生には暗い過去があるようで……

「最初から一人きりなら」

本作は、1枚の冷蔵庫の写真から始まる、温かくも切ないミステリ小説である。ジャンルは一応ミステリなのだと思うのだが、本作の本題は、自分らしく生きることの大切さである

自分がこの世界に存在して良い理由付けとしてピアノを弾き続けていた主人公が、事件の真相を通して前に一歩踏み出そうとする姿には感動した。心理描写も繊細で、どこか儚さを感じさせる透明感のある作品だ。ミステリとしても完成度が高く、全ての謎が冷蔵庫に収束していくのも見事。読んだ後、少し前向きになれる名作である

 

『ハンチバック』市川沙央

第169回芥川賞受賞。
選考会沸騰の大問題作!

「本を読むたび背骨は曲がり肺を潰し喉に孔を穿ち歩いては頭をぶつけ、私の身体は生きるために壊れてきた。」

井沢釈華の背骨は、右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲している。
両親が遺したグループホームの十畳の自室から釈華は、あらゆる言葉を送りだす――。

「私の身体は生きるために壊れてきた」

本作は、障がい者目線での健常者の特権性を語った小説である。健常者にとっての普通が、障がい者には嫉妬と憎悪の対象となる。本作を読んで、自分の考えの至らなさを実感した。

特に心に残ったのは、障がい者は普通の読書を行うことすら苦痛が伴うというエピソードである。紙の小説こそ至高、という読書家のしょうもない驕りを徹底的に叩き潰すようなパワーのある描写が続き、読んでいて胸が苦しくなった。

読んでしまったが最後、何かしら読者の中にしこりを残す。色々と考えさせられる怪物小説である。賛否両論あるのも納得だが、少なくとも僕個人としては本作に出会えて良かったと思っている。

 

以上。また来週。